台風15号は暴風雨の勢力が大きな台風として首都圏に上陸し、強風により送電線が広範囲にわたり倒れるなどして千葉県内では大規模停電が長期化してしまった。 ここにはいくつかの問題が指摘されている。 政治面からは内閣改造と重なり政治空白が生じたことによる首相官邸の初動対応の遅れ、千葉県による被害状況の確認の遅れにより復旧や支援の体制がすぐに整わなかったこと、東京電力の停電復旧の見通しが二転三転したこと、などに批判が広がった。 総じて台風被害に対する危機感が薄かったために、実際の被害の大きさに気付くのが遅く、対応が後手にまわってしまったことは確かである。 北海道で昨年9月、地震による大規模停電が発生したことを踏まえ、千葉県内で停電時の水の供給への対応を調査したところ、「非常用電源設備の確保に大きな課題があった」(県水政課担当者)ということで増強を国に要望する提案をしようとしている矢先に今回の被害が起きたとのことである。 停電による断水も一部で長期化したが、水道事業は独立採算制であるため、コストを水道料金に転嫁せざるを得ない中で水道事業者が独自に非常用電源をどこまで整備するかは難しい問題である。 また、県内の13の防災倉庫に準備してあった468台の非常用発電機の半数以上が倉庫に眠ったままで、今回の停電被害に十分に活用されていなかったことも明らかになった。個人向けにではなく行政サービスの維持に使うことを想定したものであるとはいえ、非常時に半数以上が眠っていたのでは、県の対応には大きな問題があったといわざるを得ない。 農林水産業の千葉県での被害額は300億円に達すると見られ、とくに停電の長期化により酪農や医療機関では影響が深刻であった。 また、電柱や送電線の倒壊による被害も深刻で、山林などの樹木が倒れて電線を切断した場合などは現地へ調査に入るにも困難が多く、復旧にも相当の時間がかかってしまう。 房総半島の中央部はなだらかな丘陵地帯なのだが、成田空港から飛行機で飛び立つと、まもなく眼下の丘陵地帯にゴルフ場が次から次へと目に飛び込んでくる。ゴルフ場の建設などで丘陵地帯の森林が伐採されてしまったため防風の役割を果たしてきた森林の面積が大幅に減少したことが、今回の強風の被害を拡大させた可能性もある。 今後、台風の大型化は避けられないとすれば、送電設備の強度を現在最も基準が厳しい沖縄並にして、より強靭な送電設備の構築を進めていく必要がある。 また、首都圏では台風が直撃した月曜日の出勤に大きな影響を与えた。 鉄道会社の多くが前日に午前8時までの運休を公表していたのだが、運転開始の遅れなどから多くの通勤客が猛暑の中長蛇の列をなして大混乱したことも、今後の課題として考える必要がある。 台風だからこそ緊急の対応をしなければならない人や、やむを得ず出勤しなければならない人もいるだろうが、多くの通勤客にとっては台風の中を無理して通勤するする必要があったのだろうか。事前に会社が「無理して出勤しなくてもよい」「在宅勤務に切り替える」などと指示を出してくれればよかったのだが、鉄道各社の発表が前日の日曜日だったため、会社も対応できなかった。 こうした場合に備えて会社は平素から災害などの非常時を想定した対応策を決めておき、社員に周知徹底させて、いざというときは会社の指示を待たなくても各自が出勤をすべきかどうか判断できるようにしておくことが、今後こうした混乱を避けるためにも必要である。 また今回は、台風が通過した後も、線路上や架線の飛来物の確認などで、鉄道各社が運転を開始するまでに時間がかかってしまったことも含め、事前の運転開始予定時刻の予告の仕方などにも今回の事例を踏まえて検討していく必要がある。